まさかの獄中生活。その1

いつもならば、起きてからまず最初に「今日は何をしようかな〜??」と、背伸びでもしながら考えてワクワクする事から一日は始まり爽やかな朝を迎える。

だが、ここではそんな事は無く「また、長い長い1日が始まった…」と絶望的な現実に朝一番からため息を吐き捨てるのが日課だ。

よく溜息が出る日々だった。

早朝6:30に蛍光灯が灯り、退屈で気だるい憂鬱な1日が始まる。

寝ぼけ眼をこすりながら、掛け布団と敷布団をそれぞれ4つ折りにして重ね、第1号室から一部屋づつ順に鍵が開かれ、ガシャーンと乾いた音をたてて檻の扉が開く。

檻の外はちょっとした踊り場の様な空間になってあり、右手の壁側に備え付けてある押入れへ布団を持って行く。

部屋に戻る時に檻の扉付近に置いてある水が入ったバケツ2つと雑巾2枚にホウキと塵取りを持って室内へ入り、室内の掃除が始まる。

留置所の部屋の床は偽物のビニールで作られた畳柄で、凸凹した素材の溝には茶色や黒ずんだ垢がへばり付いて沈着している。

掃き掃除をしてからバケツの水で濡らした雑巾で拭く。もう一つのバケツと雑巾は室内の奥の一角にあるトイレを掃除するのに使う。

ここに来た時から既に拘留されていた同じ部屋の顔色が悪い加藤茶似のおじさんは室内の掃除を真っ先に率先してやるので、毎日自動的にトイレ掃除を担当することになった。

トイレは和式。

外からも見える様に横向きに設置され、立って用を足す場合には隠部が見えてしまうんでは無いかと思う程のギリギリの高さから1m四方のプラスチック性の大きな窓が備え付けてある。

ケツを拭くのが見えないだけマシだろ。っという事なのだろうか。

ドアに鍵なんてものは当然ない。

扉は完全に閉まらない様に壁から浮き出る形で作り付けてあり、上部は弧を描く様に右上から左下にかけて滑らかに丸く切られていている。

おそらくこれは、服などを紐にして引っ掛けて、首吊りなどの自殺が出来ないように工夫されているのだろうと解釈している。

逮捕者の中にはそんな問題を抱えた人も入ってくるのだろう。

扉に隙間がある為にトイレの臭いが外に漏れて臭ってくる事もあるし、お互いに出す音も聞こえる。酷い場所だ。

トイレ内には流すレバーは無く、右手の壁には小さな鉄の突起があり、ボタン式となっている。

どの部品も壊したり、外して武器にしたり出来ない様にと工夫をこなした造りだ。

扉の蝶番のネジさえもネジ穴が全て潰されていたり、溶接などを施してある徹底ぶりが伺える。

なんとかして脱獄出来ないだろうか?

この考えはここに来た者全てに共通して一度は考える事であろう。それほどここでの生活は何もする事が無く、退屈な時間が殆どを占めるからだ。

もし、逃げるとしたら自分ならどうするか?

そう一度は考えてはみたが、唯一の方法は鍵を持つ警官をブッ倒す以外の方法は無さそうだ。

檻から出ても更に2つの鍵を開けれなければ出る事は出来ないのだ。自分たった1人で常時3〜4人いる看守を制圧するのも簡単ではない。

仮に出られたとしても、ここは警察署の2階であり、鍵を開けて出ても警察署の中なのだ。そこから先は何人もの警察官がいる事務室を横切らなければならないし、更に1階は警察車両の車庫で、開く速さが非常に遅い自動シャッターが待ち構えてある。おそらく、操作ボタンを触るにも鍵が必要だ。

窓にも当然、柵が施してあるのでショートカットは不可能である。

結論として、とてつもなく暇だった俺は完全なる脱獄攻略法を一つ考え出した。

脱獄するには何十人もの警察官を北斗のケンシロウの如くホゥ-ワッチャー‼︎と叫びながら百烈拳を見舞いし、秘孔を突き、血しぶきを次々に上げて、「お前はもう死んでいる」と低く小さな声でカッコ良く数十回も呟き、後から応援に駆け付けて来た警察官に銃口を向けられ、飛んで来る銃弾の数々をマトリックス顔負けのキアヌリブスよりも更に上回る角度で仰け反って銃弾避けをしつつも、更にその最中に相手の数と同じ数の銃弾を指でキャッチして銃弾に劣らない速さで瞬時に投げ返して反撃。狙撃して来た者を片っ端から返り討ちにする。そしてその体勢からブリッジ歩行し、階段をエクソシスト張りにダダダダダーと物凄い形相で1階まで駆け下りて最後のシャッターは手取り速くダイハードに匹敵する爆破を炸裂させて突破する。そしてメロスは走って行くのだ。

我ながら見事な作戦だ。

更にプリズンブレイクの主人公スコフィールドとなった俺は…ってもうええか。

さて。

そもそも仮に外へ出ても財布、携帯、自転車などなど当然全て没収されているので何も持ち合わせてない。

更にここは地元でもなく、かくまってくれる人など検討もつかないこの北海道に裸足でジャージの上下だけの軽装で逃亡生活をする事など過酷を極めるであろう…いくらハンサムなスコフィールドと言えども無理だ。そこまでして逃げる事でもないし、それこそ何かの罰だとも思えてくるぜ。ってな具合の考えに至り、結局いつも諦めては外の世界に想いを馳せるばかりだった。

掃除を終えると次に洗顔と歯磨きの時間だ。

右隣の3号室向かい側にある流し台へとまた1号室から順に、鍵が開けられる。

小学校や中学校などにもあるステンレス制の角ばった流し台で蛇口は水と湯が3つづつ並んでいる大きさだ。

学生時代、水道で遊んだ懐かしい想い出が浮かんでは消える。

よく白い服のコだけに水を掛けてブラを透けさせて見ようと試みたものだ。

黄色も、薄めの色ならたまに狙ってやったっけな…などと、

そんな事を考えながら流し台の上に各自の番号ごとに区切られてある棚から9番のコップと歯ブラシ、歯磨き粉を取り出し、洗面と歯磨きを済ませる。

ここでは僕は「9番」というあだ名が付けられた。

スリッパや歯ブラシ、コップなどにわざわざあだ名を書いて迎え入れて歓迎されている様だ。

付き合いたてのカップルの様に、浮き足立った心を持ち合わせた看守なのだろうか。

何か用事がある度に「おい、9番」と呼ばれる。

その度に馴れ馴れしく呼ぶなと思いイラッとするのだが、中でのプライバシー保護の為にも番号で呼ぶそうだ。

親近感から付けられたあだ名では決して無かった。

棚の下にそれぞれ決められたタオルが吊るされてあり、それで顔を拭くとまた檻に戻る。

開いたり閉まる度にガシャーンと乾いた音が鳴り響く。

ーーガシャーン…

7時に朝食。

檻の右下の角に小さな扉があり、そこがパカっと開いてからタッパに入った米と弁当箱、ランチョンマットなどなど順に小さな窓から配給される。

朝食のメニューは毎日決まっていた。

パックの納豆を半分に分けてある程の少量の納豆、たくあん2枚、きんぴらごぼう、昆布の佃煮、混合肉のウインナー1本、インスタント味噌汁。

質素な朝食を済ませると、昨日の日付の新聞を一人づつ回し読みして過ごす。

僕は毎日外の気温を欠かさずチェックした。

入所当時は札幌周辺は最低気温12度前後。

これがのちに、もの凄い数字になってゆくとは知らずに…。

朝9時、点検の時間。

一人づつ外に出て全身に金属探知機を当てられる。それから直接、手足や襟元の袖やズボンの腰回りのゴムで締め付けられる部分などにも指を入れられて一周し、ポケットを確かめる。

靴下を脱いで足の裏までも見られる始末だ。

その間、部屋にも何か隠していないか、丹念に隅々点検をしている警官がいる。

その後、昼食までにする事は曜日によって決まってある。

平日は毎日朝食後に体操の時間というものがあり、3mほど高い壁の天井が吹き抜けになってある運動場と呼ばれる9畳ほどの狭く薄暗い空間へ出られて外の空気を吸える事になってある。

上を見上げても檻の鉄骨が組まれてあり、それを隔てて空を見上げる。どんなに綺麗で鮮やかな空があろうと、ここからは色褪せて見える。

午前の出られる時間帯に太陽は建物の反対側にあり、直接日光に当たる事はない。

檻越しに見る空ほど切なくなる物はない。

青く澄んだ大空。

風の吹くまま自由に流れる雲。

戯れ合いながら飛び廻る鳥達。

すぐそこにあるのに。

檻を隔てて網目状に陰を映す空はとてつも無く遠い世界に見える事が苦痛なのだ。
外への運動は出たくなければ出なくてもいいので、気分が乗らない時は断って部屋に閉じ篭って本を読んだ。

本は1日に3冊借りる事が出来て、朝の9時から19時半頃まで読む事が出来る。

文庫本は200冊、漫画も5.6種類全巻揃って用意されてあった。

読書の他には、文章を書いたりも出来る。

手紙を書く人が殆どだが、僕はこんな場所から手紙を届けたい人は見当たらなかったので、留置所で見たもの、感じた事などを日々メモをして書き留めていた。

文字はいいが、絵は描いてはいけない。

月、木は風呂の日で風呂に入る事が出来る。

火、金は洗濯の日。洗濯物を警官に渡すと勝手に洗濯して干していてくれるだけ。他には髭剃りをさせてくれる日でもある。

木曜の昼食はカレーのメニューが決まっているだけで、他にする事はない。

土、日曜日は何もない。運動の時間も与えられない。

昼飯と夕食時は1時間ラジオが流されて、ニュース速報や流行りの音楽が鳴り響いている。  

ラジオが1時に止められて無音になり、夕食までまた何も無い時間を過ごす事になる。

部屋の中ではおじさんと一緒だったが、基本的に喋る事は無かった。

僕は入ってからの5日間、酷く落ち込んだ。

必要な事以外、殆ど口を開かなかった。

周りの部屋の連中は時折なにやら会話したりしている声がちらほら聞こえる。会話する事は注意されない様だ。

第1号室には、ヤクザ屋さんがいた。酔っ払って記憶が全く無いらしいが、人を殴った障害事件で逮捕されたらしい。酔っていない時は気さくな良い人な様で、色々と檻越しに話し掛けてきてはこの場の雰囲気を紛らわせてくれるムードメーカーでもあった。

もう一人の20代前半の男はDVDなどを窃盗して転売したのがバレて逮捕。以前障害でも逮捕された事があるらしい。1号室の二人共どちらも留置所は初めてでは無いらしく、捕まってからの流れについて後に詳しく教えてくれる事になった。

僕はこんな檻に入るなんて今迄に無かったし、まさか自分が捕まるだなんて想像もして居なかったので、これから何がどうなるのかサッパリわからなかったのだ。

一方の第3号室には僕と同年代の男が19の酔っ払った若造にケンカを売られ、最初は辞めとこうと思っていたがあまりにしつこくケンカを売られるので結局ボコボコにしてしまい、顎の骨2箇所と鼻の骨をへし折った障害事件での逮捕者。

もう一人の30代後半の男が大麻で捕まったという事が聞こえてくる会話から分かった。

同じ部屋の加藤茶似のおじさんとは基本的に話しをしなかったが、後々にカトちゃんがもう帰りますと言って挨拶された時に「何したの?」と聞くと女と揉めて…などと言っていたので女を殴ったか何だかしたのだろう。女を殴るなんて最低だ。見損なったよカトちゃん。

17:30に夕食を食べて、19:30に歯磨きをしてから布団を部屋に入れる。

そして9時に消灯。

疲れても居ないし、目を瞑ると色々な事が頭を渦巻いて毎日なかなか眠りに就く事が出来ない日々だった。

6:30起床、布団戻し。
6:40掃除
6:50歯磨き
7:00朝食
7:30運動(平日のみ)

月、木 風呂
火、金 洗濯、髭剃り

12:00昼食
17:30夕食
19:30歯磨き
21:00消灯

本や物書きなどの唯一の暇潰しである時間は9:00〜19:30まで。

留置所での基本的な生活はこの様にして送られるのだ。

あまり言いたく無いんだけど、
身体張ってます。

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出て行動を始めているんだが、マイナスまで冷え込む日にキャンプする事に危険を感じ始めた。

本日、青森から岩手県へと入った。

身体は鈍っていて動かないわ雪は降るわ手足は凍るわもう大変。

もしかしたら断念せざる終えないかもしれない。

今夜、マイナス2度を超えるらしい。

非常に辛い…。

今夜、続行か断念か決めるとしよう。

まさかの獄中生活。その1” への1件のフィードバック

  1. 北海道登別のものです、やはり、何かありましたか、ずうと楽しみに見ていたのですが、更新されていないので、心配していました。何があったのですか?

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